なぜ「なんにも効かない」ものは「なんにでも効く」といわれるのか
通常の医薬品は特定の病気や症状に効果的だが、なんにでも効くというわけにはいかない。しかし、代替医療の多くは様々な病気や症状に効くとされる場合が多い。なぜそんなことが起こるのだろうか。
その理由は「効く」の基準が違うというところにあるのではないだろうか。図のようにプラセボレベルの低い基準で効くと判断するのならば、なんにでも効くように見えるだろう。
オッカムの剃刀の理解 3段階
非合理批判の場では、「オッカムの剃刀(かみそり)」という考え方が登場することがある。オッカムの剃刀とは、以下のような考え方である。
現象を同程度うまく説明する仮説があるなら、より単純な方を選ぶべきである。
LEVEL 2(オッカムの剃刀は科学的真偽の判定とは無関係)
オッカムの剃刀という考え方は、真偽を追うための戦略のひとつにすぎない。
剃刀にそぎ落とされるかどうかは、仮説が科学的に正しいかどうかとは無関係である。
よって、いくつかの科学的仮説の中から一つの科学的仮説を選択する手段として使うのは誤りである。
非合理批判の諸段階
ニセ科学批判などの非合理批判活動は様々な人が行っている。批判のやり方には個性があるが、違いはそれだけにとどまらない。そこには批判レベルというべきものがある*1。
LEVEL 0(普通の人)
信じるも信じないも場当たり的。
LEVEL 1(一歩踏み出す)
非合理的なことは何となく否定している。
根拠を述べずになんとなく批判を行う。
LEVEL 2(否定論者とラベルづけされる)
なぜ否定できるかを合理的に説明することができる。
正しいことを言っているのだからそれで良いと考える。
LEVEL 3(懐疑論者と呼ばれ始める)
なぜ合理的な説明を受け入れられない人(ビリーバー)がいるのか不思議に感じる。
どんなに合理的な説明を尽くしても理解してもらえないことに悩む。
LEVEL 4(懐疑論者の中でも注目されはじめる)
なぜ人間はビリーバーになってしまうのか理解している。
どうすれば理解してもらえるのか試行錯誤する。
LEVEL 5(変な人扱いされる)
ビリーバーを説得することとマインドコントロールの違いについて思いをはせる。
説得が成功したとして、自分のやっていることはダークサイドではないのかと悩む。
*1:実は単なる思いつきに過ぎないが、「分かりやすい文章」みたいな本には「言い切れ」と書いてあったので言い切ってみる。批判なり改変なり話のタネにしていただければ。
感染パーティーは対岸の火事ではない
ちょっと忙しいので、あまりちゃんと書けないのだが、簡単にエントリを上げておくことにする。
『ページが見つかりません - MSN産経ニュース』という記事がMSN産経ニュースで取り上げられた。
新型インフルエンザの感染が拡大している米国で、わざと感染して免疫をつけようという「感染パーティー」が話題になり、米保健当局が20日までに「本人と周りの子供らを危険にさらす」と警告する事態になった。
で、これについたブックマークを見ると、「米国は酷い」という趣旨のコメントがいくつか見られる。ところが、これは何も米国に限った話ではなく、日本でも行われていることである。
今回紹介するのは、事前企画されたパーティではないものの、全く同じ考え方であることがわかると思う。
昨日のホメオパシー勉強会を迎えました
ちょうど水疱瘡の話をしているときにCさん登場!!
きれいに水疱瘡にかかった子供も一緒にね!
(私には水疱瘡がきれいに咲いた花のように見えるんですサクラ)
すると先週からホメオパシー勉強会に参加されているお母さんがこう言ってくれたんです
「私の子供にも水疱瘡ちょうだ〜い!」
わ〜いニコニコ水疱瘡パーティーの始まりで〜す!
『てすとっ。』
ホメオパシー(特にトラコパシーとも呼ばれる由井寅子氏が率いる「日本ホメオパシー医学協会」)は、予防接種否定論を主張しており、こういった免疫パーティとも親和性が高いようだ。
追記(2009-05-12)
こういった問題もはらんでいるホメオパシーを、「助産師会」が肯定的に取り上げていることは忘れないで欲しいと思う。既に「おかしな親」の問題ではないのだから。
参考:「助産師会はあんまり大丈夫じゃないかも - Skepticism is beautiful」
ベネッセのトンデモ本:回答編
『トンデモ本: 大学教授のぶっちゃけ話』というエントリのブックマークが盛り上がっている*1。もともとは、有機ELで有名な城戸教授が血液型性格判断に肯定的な内容のエントリをあげたことが*2、NATROMさんのところで取り上げられ*3、注目されたものだと思う*4。
ベネッセの『チャレンジ3年生「なんで!?本」』の件については、去年の1月にベネッセに指摘済み。ベネッセの回答は概略以下のようなものだった*5。
ベネッセが記事を作ったわけ
まず、なぜこのような特集を組んだかということについては、小学校の学習指導要領改定によって、小学生が音について学ぶ機会がなくなったが、ベネッセとしては、小学生にも音の性質を伝えたいという意図があった。音に興味をもってもらうための面白い話として、問題の記事を入れたということらしい。
記事の信憑性について
動物や植物に音楽を聞かせるという試みが、全国の現場で行われており、その効果とメカニズムについても数名の大学教授や企業が研究をしていることが確認できたため、記事にするにあたっての問題はないと判断したとのことだ。
問題指摘を受けてのベネッセの見解
「諸説あります」という説明で、「メカニズムの解明はされていない」という点を示したつもりだったが、あたかも確証のとれた事実であるかのような取り上げ方をしたのは問題だったかもしれないとのこと。
今後は、責任の重大さを肝に銘じ、もっと慎重に検討を行い、確証のないものは「ない」とはっきり提示した上で、子供が考えられるような紙面づくりを目指して行きたいとのことだ。
私の考え
ベネッセからの返信は、大企業とは思えないぐらいきちんと指摘を受け止めてのものだった。また、言い訳がましくなく好印象だった。まずはそこに驚いたし、高く評価したい。
ただ、「現場で行われおり、いくつかの大学教授や企業が研究を行っている」という判断基準で、まともかどうかを判断するのはちょっと厳しいと言わざるを得ない。だからといって、画一的な基準を作るのも難しいだろう。「興味を惹くような内容」を求めてしまうとさらにハードルは高くなってしまう。
私としては、実際はどうであるにせよ、建前は教育の専門家でなければいけない立場なのだから、私のような素人より的確に、信憑性の判断を行える能力を身につけて欲しいものだと思う。しかし、それも理想論だろう。
具体的な方法が提案できる人がいるようならば、ベネッセに提案してみてはいかがだろうか。
*1:[http://b.hatena.ne.jp/entry/http://junjikido.cocolog-nifty.com/blog/2008/01/post_c115.html:title]
*2:[http://junjikido.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_8970.html:title]
*3:[http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20090316#p1:title]
*4:その前にホッテントリ入りしてたのかな?13日辺からブックマークがつき始めている。きっかけはどこだったんでしょう?
*5:一応、私信扱いになるかもしれないので、引用していいものか不明ということで概略にしておく