ホメオパシーは「効果が確かめられていない」方法ですらない

ホメオパシーの宣伝で典型的なものは「科学的根拠は不明だが、確かに効くのだ」といったような話です。それに対して「効果があることは確かめられていない」という批判がつくことも良くあります。もちろん、この批判は間違っていませんが、「効果がないことは確かめられている」という方がより適切ではないでしょうか。

確かめられているかいないか

よくあるニセ科学的健康法や代替医療では、効果がまともに調べられていないものや、怪しい体験談を根拠に「効くのだ」という主張が行われる場合が多いようです。この場合には、「効果があることは確かめられていない」というのは正確な表現です。まともに調べられていないのですから、効果があるかないかは不明ですよね*1

ホメオパシーの場合は、このような健康法や代替医療とは事情が違います。ホメオパシーについては何度も科学的な研究が行われており、その結果として「効果はみられなかった」という結論が得られた状況です。科学的な謙虚さで言えば「効果は確かめられていない」ですが、一般人の感覚で言えば「効果がないことは確かめられている」となります。

なぜ効果がないことは確かめられているといえるか

あなたが単純にある治療法に効果があるのかないのか、メカニズムなんてどうでもいいから確かめたいという欲求を持った場合、どうすればいいでしょうか*2

  • アイデア1:治療を行ってみて、治ったら効果があると判断する*3

→ 治療を行わなくても治ったかもしれませんよね。大抵の病気には自然治癒の可能性があるものです。

  • アイデア2:ふたりの人を用意して片方に治療を行う。治療した人が治って、治療しない人が治らなかったら効果があると判断する。

→ もしかしたら、治療した人が偶然自然治癒したのかもしれません。

  • アイデア3:多くの人を用意して二つのグループにわけ、片方のグループには治療を行い、片方には治療を行わない。治療を行ったグループの方が治った人が多ければ、効果があると判断する。

→ 入院とか、監視とか、治療を行うグループの環境が、治療を行わないグループの環境と違う場合、その環境の影響で治りやすかったのかもしれません。それから、「プラセボ効果(プラシーボ効果)」なんかもあるらしいですよ。

  • アイデア4:多くの人を用意して二つのグループにわけ、片方のグループには治療を行い、片方には治療を行ったふりをする。その他の条件はふたつのグループ共に同じになるように注意する。治療を行ったグループの方が治った人が多ければ、効果があると判断する*4

→ 実は、「治った」と判定する人が、「この人は治療を受けた人」「この人は治療を受けたふりをされたひと」ということを知っていると、判定に影響が出る場合があることが知られています。

  • アイデア5:アイデア4に付け足して、判定する際は、どちらのグループの人かわからないように気をつける*5

→ ところで、もともとのグループ分けって本当に公平に行ったんですか?

  • アイデア6:アイデア5に付け足して、グループを決める際に主観的な要素が入らないように気をつける*6

これで無作為抽出二重盲検法無作為二重盲検(randomized double-blind)になりました。このレベルだと科学的な論文として認められます。通常、ここまでくると堂々と「エビデンス」と呼ぶことができます。よくみると気付くと思いますが、治療が効くメカニズムが分かっている必要はありません。「効くことさえわかればよい」レベルの実験になります。条件がどんどん追加されていったのは、間違って「効いた」と判定してしまうことを避けるためでした。効くか効かないかを突き詰めた実験方法ですね。

ホメオパシーはこのような手法で効果を調べた上で、効果は確認されていないわけですから、普通の意味では「効果がないことは確かめられている」と言えるわけです*7

たまたまその実験では検出できなかっただけじゃないの

確かにホメオパシーの論文は多数出ており、一部では効果ありとする論文もあります。こういった場合の解決法としては、メタ分析という手法があります。論文の結果を集めて、それを細かく分析することによって、最終的な結論を導く方法です。

2005 年のLancetには110報のホメオパシーに関する論文(と110報の一般医療)をメタ分析した結果が報告されていますが、結論は「ホメオパシーはプラセボ効果であるという見解と矛盾しない」というものでした。科学論文らしいもってまわった言い方ですが、普通の人は「ホメオパシーはプラセボ効果だよ *8」と捉えて問題ありません。

提案

というわけで、ホメオパシーに効果がないという指摘を行う人は、「効果が確かめられていない」ではなく、「効果がないことは確かめられている」と指摘したほうが良いのではないか?と提案いたします。

追記(2009-01-29)

プラセボ効果だとしても効果はあるんだろ」という意見と、「信じていないとプラセボ効果は起こらない」という意見が見られるようです。「なぜ効果がないことは確かめられているといえるか」をもう一度読み返して「プラセボ効果がある(治療を受けてないグループが治った)」ということの意味を考えてみて下さい。

それから、プラセボ効果については「誤用される「プラセボ効果」 - Skepticism is beautiful」も読んでいただければと思います。記事ではプラセボ効果のメカニズム候補として、「条件付け」もあげています。もし、条件付けでプラセボ効果が起こっている場合、「効かない治療」によって条件付けが上書きされることによって、今まで働いていたプラセボ効果が消える可能性もあります。「プラセボ効果を発揮させるために、よく効く薬だと嘘をつくことが有効である」という意見は、まだ実証されているレベルではないと思われます。

*1:もちろん、そんな不明なものを効果があると思わせて商売にするなどというのは言語道断です。(法律的な意味ではなく)一般的な意味で詐欺です。通常、効果(作用)には副作用が伴うものですが、効果がまともに調査されていないのに、副作用がまともに調査されているわけはありません。効かないかもしれないというだけでなく、どんな害があるかも不明だということは重要です。

*2:二重盲検法については、「[http://d.hatena.ne.jp/lets_skeptic/20070501/p1:title]」にも書きましたが、もう一度説明してみるのもいいかもしれません。

*3:典型的なので「3た論法」という名前がついています。「使った、治った、効いた」という論法です

*4:盲検法になりました

*5:二重盲検法になりました

*6:無作為二重盲検法になりました

*7:科学では、どんなに厳密な実験を行ったとしても、その結果が絶対に正しいことを前提にしないため、回りくどい歯切れの悪い結論しか言いません。

*8:プラセボ効果と見分けがつかない