相対主義者?との付き合い方

というわけで、前回のエントリで相対主義を概観できたと思うから、次の段階に進むよ。相対主義的な話を持ち込んで、科学やニセ科学批判の話に待ったをかけられたとき、僕たちは何を考えればいいんだろうかということについて。あくまで、まともな相対主義について。中篇。

相対主義者と呼ばれている人は本当に相対主義者か

たぶん違う。もともと「相対主義者」というレッテルを貼ったのはこっちなんだから、一度レッテルをはがして、立場を確認するのがいいんじゃないかな?前回、相対主義についてまとめたから、それを基準として、相手の立ち位置をざっくり確認してもらい、細かい相違点について語ってもらうのが穏当な対処かもしれないね。

もっと身も蓋も無いことを言えば、科学の話やニセ科学の議論で相対主義的な視点を持ち込んだ人も、自分の主張がどのような意味をもつのか、科学的な方法に相対主義を適用するというのがどういうことなのか、きちんと認識していないと思うんだ。だから、はじめにはっきりした立ち位置を確認してもらう必要が有る。

どこら辺に落ち着くか

最初に想定したのは、「オカルトとか超常現象とかニセ科学とかを信じているわけじゃないけど、科学が絶対に正しいわけじゃないよ。ちょっと科学を絶対視しすぎじゃないの」とか主張する人だったよね。

ところで、相対主義を使うときの意識に注目して以下のような分類をする場合もあるみたいだよ。

そんなわけで、立場を整理した時点で、僕らが扱う話として脱落せずに落ち着けるところは、概念的相対主義か方法論的相対主義ぐらいしかないんじゃないかと思うんだけど、どうだろう。ここら辺で合意に達することができるかってのがポイントになりそう。ここら辺で合意に達することができないのは、僕らの基準ではまともじゃない論者になりそう。

概念的相対主義

例えば、ニュートン力学の世界観と、一般相対性理論の世界観はだいぶ違う。精度の違いはあるけど、そもそも科学は100%の精度のものなんて想定してないから、別のパラダイムだとか別の概念だとかいうことも可能*1。ここで特に注意して欲しいのは両方とも概念が対象とする同じ客観的事実があるということ*2。概念的相対主義の立場が現実的に肯定されるのはこういった関係。見かた(概念)は違うけど、どちらも事実をうまく表現しているということ。

もっと、微妙な例の方がよければ、プレトマイオスの頃の天動説を持ってきてもいいかもしれない。その頃の天動説は、単なる天球の回転という概念ではなく、離心円とエカントなんてものを持ち込んで、天球だけでは説明できない太陽系内の惑星の動きや速度変化も説明できる体系だった。つまり、地動説ほどエレガントではないけど理論と観測事実は合っていたということ*3

概念的相対主義の文脈で何かいいたいなら、最低限それが「事実にうまく合う」んじゃなきゃ意味がないってことは忘れちゃいけない。

ニセ科学批判に対して概念的相対主義の立場から何かを言いたい場合は、ニセ科学側に「事実をうまく説明できる」ことが最低限要請されるってわけだ。あれ?でもそうすると、概念的相対主義を本気で主張する場合、「オカルトとか超常現象とかニセ科学とかを信じているわけじゃないけど」から外れちゃいそうだよね。

方法論的相対主義

それでも「科学を絶対視しすぎじゃないの」という印象がどうしても抜けない人がいるかもしれない。その段階で考えてもらいたいのが、「ニセ科学批判者曰く「うわ、そんなことありえないよ」 - Skepticism is beautiful」で触れた、実在論絶対主義の混同という話。で、結論は絶対主義だと感じているのは「科学」を知らないゆえの誤解だし、実在論の立場をとった上で科学的な考え方から出た結論に疑問を提示したいならば、事実に合う反証をもってきてからということになっちゃう。

間違いを見つけ出し、従来の判断を覆すものもまた、客観的世界観察の結果として見つかった事実である。

何度も書いてきたように、科学が絶対なわけじゃない。でも、実在論を認めるのならば、科学的方法によって出された結論に疑問を呈すのも客観的世界の観察結果として見つかった事実をベースにしなければ、「無根拠の放言」としかならないよねってことだ*4

まとめ

科学は既に最低限の概念的相対主義を組み込んでいるので*5、改めて相対主義を持ち出す必要はない。また、絶対主義の否定という文脈で方法論的相対主義という立場をとる必要も無い。なぜなら、そもそも絶対主義なんて信じている人は稀だし*6、科学はもともと絶対主義をとっておらず、むしろ絶対主義の否定*7を暗黙の前提として内包しているから。

科学絶対主義*8以外にとっては、まともな相対主義を持ち込む必要はないという結論になりそう。

*1:ニュートン力学が間違いで相対性理論が正しい」なんて理解はあんまり良くないと思う

*2:例えば惑星の運行とか、物理的な実体のあるものを想像してもらうのが一番いい

*3:アドホックといえばアドホックなんだけど。

*4:「無根拠の放言」でも真面目に検討すべきという意見ならば、「あなたは性犯罪者である」とか「あなたは殺人鬼である」とかいった話も真面目に検討すべきか、もう一度考えてもらいたいね。これは、まともな相対主義の話じゃないし。

*5:だからこそ、科学史にはパラダイムシフト的な話が出てくる

*6:たぶん、そういう人は僕らが批判する対象でもある

*7:非の打ち所の無い究極的な真実には到達できない

*8:どこかにはいるんだろうけど、まともな論者じゃない