説得における共感の重要性

議論や対話に重要なこと - Skepticism is beautiful」では、以下のような指針を提示しました。この指針の背景についてもうちょっと違う表現で書いてみたいと思います*1

  • 相手の言っていることは基本的に正しいことだとして解釈せよ
  • 相手の言い分が非合理ではなくなるように解釈せよ

議論における共感をどう考えるか

今回の話で共感というのは「相手視点に立つ事」を意味しています*2。殆どの人は、自分の判断が妥当だと考えて主張を行っています。ということは、うまく相手の視点に立つことができれば、相手の言っていることが合理的で正しく見えることが期待できます*3

相手の視点に立ち、相手が自分とは異なる結論に至ったことが腑に落ちた時点で、共感は成功したと言えます。相手にその共感が伝わればいいのですが、ここら辺の条件はいまいち分からないためペンディングにしておきます*4

この視点に立ってはじめて、結論や論理の欠点を的外れではなく指摘する下地が整います。

固定観念は必要

ところで、思考を色々と展開するときは、その足場としての固定観念が必要です。固定観念は足場として働きます。空中で足をバタバタさせたところで、一向に前に進めないのと同じで、いきなり足場全て捨てて前に進むことはできません。
固定観念を完全に捨てる場合でも、全てを疑ったら何も思考できないので、疑わない足場としての固定観念を確認し、少しずつ足場を変えながら前に進み、最終的にもとの場所とは全く異なる地点、最初の固定観念とは全く別物になるという道筋をとるわけです。

私のように超常現象を信奉していた立場から、懐疑論者を自称するような立場になった人ならば、間違いなく*5通った道のはずです。

説得するということ

この視点で説得するということは、まるで自分が立ち位置を変える行動をとるように、相手の立ち位置から自分の立ち位置までの移動をイメージし、一気に足場を崩さないように気を配りながらの進行を導くことになります*6

批判的思考では、こういった共感を意識した思考を含める立場を"second wave"と呼んでいます。

*1:基本的には前に書いたことと同じです。

*2:これは理解に近い意味を持ちます。理解とは別の意味の感情的な共感も存在して、これはこれで説得の場面で意味をもつと思いますが今回は扱いません。

*3:相手に悪意のない場合という限定が付くかもしれませんが、疑心暗鬼に陥るよりは楽観して失敗した方が楽でしょう

*4:ここまでくると、殆ど何もしなくても共感しているのが自然に伝わったりすることがあるのですが、説明できるほど分かっていません

*5:しかも、それなりの時間をかけて

*6:こんな風に書くと、相手が間違っていることを前提とした傲慢イメージを持つ人も少なくないと思いますが、そもそも説得自体が傲慢なものなので、傲慢さを避けることはできないと思います。