ニセ科学批判の現状への提案をする前に考えて欲しいこと
メタ論争になりがちないわゆるニセ科学批判批判ではなく、ニセ科学批判への建設的な提案は、きっと迂回生産を意図してのことだと思います。こういった考え方自体は問題なく、むしろ好ましいものだと思いますが、敢えて言いたいことがあります。
今あるニセ科学批判の背景を把握する労力を割けないのならば*1、現状を「変更」するよう提案するのではなく、新しい切り口のニセ科学批判を自らの行動で示して欲しいということです。
「ニセ科学」という表現はとげとげしい
「ニセ科学」という表現については、私も攻撃的な印象を受けています。「ニセ」という表現は、上から目線で紋切り型で有無を言わせない雰囲気をまとっていると思います。たぶん、これだけで反発心を生むのは間違いないとも思います。一見すると不適切な言葉かもしれません。
しかし、「疑似科学」ではなく「ニセ科学」だったからこそ、「ニセ科学批判」は注目されたといっても間違いではないと思います。私は非合理批判のひとつとして8年ぐらい前から断続的に疑似科学批判をしてきました。しかし、「ニセ科学」という言葉が現れるまで、こんなにこの問題が注目されたことは一度もありませんでした。
「ニセ科学」という言葉が広まるきっかけとなった菊池誠教授は、リスク(誤解・反発)とベネフィット(マーケティング)を考え、ベネフィットをとることを選んだのでしょう*2。
このように、ニセ科学批判の現状には、一見しただけではわからない背景がある場合があるのです。おそらく、他にも見えにくい様々な事があると思います。*3。
「ニセ科学批判の現状を批判するな」ではない
間違って欲しくないのは、「現状のニセ科学批判を批判するな」ということではないということです。最近ニセ科学批判について知ったばかりの一人の人が考えるより、何年も前からコミットし続けてきたニセ科学批判者は考えている場合が多いのです。
ニセ科学批判の現状と背景をきちんと把握し、正しく批判するという方法は開かれています。しかし、現時点であまり知識がないのならば、これは大変な労力を必要とします。そして、十分に把握しないまま的外れな批判をしてしまえば、ニセ科学批判者から厳しいツッコミが入るでしょう。
どこまで追えば十分なのかは私だってわかりません。調べた上であってもツッコミを入れられる覚悟はしておいた方がいいでしょう。ニセ科学批判者との議論には時間も労力も必要でしょう。
「ニセ科学批判の現状を批判する」ハードルは高く、反論が来る可能性も高いため、覚悟が必要だというだけのことです。
自分の信じる方法でニセ科学批判をしてください
他のニセ科学批判者はひとまず脇に置き、自分が正しいと考える方法で批判するという方法もあります。逆効果だと思われるような批判をしている場合、ニセ科学批判者からツッコミが入るかもしれません。しかし、あなたが真面目に考えた結果としての批判ならば、殆どの場合大丈夫でしょう*4。
では「勝手に自分でやれ」ということなのか。その理解は間違っていないと思います。ニセ科学批判者たち*5もまた、徒党を組んでいるわけではなく、それぞれが「勝手に自分でやっている」に過ぎません。
もちろん、ニセ科学なんて言葉を使う必要はありません。私たちだって、時と場所によってニセ科学という言葉も、科学という言葉すら避けたコメントをする場合があります。
絶対に迂回生産にはならないのか
あなたの方法がすばらしいものなら、ニセ科学批判者は可能な限りそれを取り入れるでしょう。まともなニセ科学批判者は、今よりもっと良い方法があるのならば、それを取り入れたいと思っています。
ニセ科学批判への提案をするために必要な労力を、ニセ科学批判の方で使って欲しいのです。そして、あなたが正しいのならば、直接ニセ科学批判への提案を行わなくても、きっとニセ科学批判の現状を変えることができます。
もしニセ科学批判者が望ましくない行動をとっていることを指摘したくなった際にも、そういった行動とその影響を根拠とした主張は強い説得力を持ちます。
自分で行動を起こす方が、単にニセ科学批判者への提案をすることよりも、ずっと効率的であると考えています。
追記(2009-03-06)
あまりにも誤読が多いようです。誤読が多いということは、私の文章が酷いということでしょうから主題をはっきりさせたいと思います。
私が主張しているのは「ニセ科学批判」への批判や提案のハードルは高いということです。新たなアイデアがあるのであれば、高いハードルを越えるための労力を無視して批判することや、批判するために高いハードルを越える労力をかける前に、ニセ科学批判自体に取り組んで欲しいということです。
このエントリでは、決して「ニセ科学批判」自体のハードルの話をしているわけではありません。
このふたつは大きく異なる話です。コメント欄でのやりとりでは、より私の主張が明確になったと思います。参照ください。