フェスティンガーの認知的不協和理論(社会心理学 第三回)
さて、ニセ科学批判系の話ではよく出てくるフェスティンガーの認知的不協和理論(congnitive dissonance theory)です。よく出てくる割には意外に教科書的な説明が見つからないです。
基本的説明
獲得した認知間に食い違いや矛盾が存在すると(不協和関係)、それを低減するように動機付けられるという理論です。フェスティンガー時代から、認知的不協和理論の研究では行動と情報の不協和関係に特に注目してきました。
不協和の低減には、複数の方法があります。解決の方法のリストと、具体例は以下のような感じです。
「行動=タバコを吸っている:情報=タバコは身体に悪い」
- 行動の変化:タバコをやめる
- 認知の変化:タバコと癌の関係ははっきりしていない
- 新たな認知の追加:タバコにはストレス解消などの無視できないメリットがある
- 新たな情報への選択的接触:タバコのメリットを示す情報を選択的に集め、タバコのデメリットを示す情報は無視する
不協和低減のための態度変化が起こりやすい条件というものも研究されており、それは以下のようになります。それぞれの項目にそれぞれの研究があります。
- 反態度的行為に関する正当化(報酬)が十分ではないとき:退屈な行為を面白いと嘘をつくことの報酬が20ドルのときよりも1ドルのときの方が行為を正当化する必要が強くなり、態度変化が大きくなる
- 罰の脅威が小さい状況で行為がなされたとき:あるおもちゃで遊ぶのを禁じられたとき、罰の脅威が小さいほうが事態を合理化する必要が強くなりおもちゃの魅力が低減しやすい。
- 行為が自由意志に基づいてなされたとき:自分の意見と反対の内容のエッセイを自ら選択して書いた場合は、選択の余地がなく自分の意見と反対の内容を書いた場合よりも態度変化は大きくなる。
- 他に魅力的な選択肢が存在したとき:ふたつの品目の商品の一方を選択したとき、両者の魅力が拮抗しているほど選択したほうの魅力は増大し、選択しなかった方の魅力は低減する
- 行為の遂行に多くの労力を費やしているとき:討論クラブの入会テストの難易度が高いほど入会後にクラブに対する魅力は低減しにくい
さらに、関連する研究として、対象に関する知識を十分有している場合には、対象についてよく考えれば考えるほど、態度が極端になる「自己発生的態度変容(self-generated attitude change)」が起こるという研究もあります*1。
解釈
多くの場合、不適切な態度変化の原因としてばかり取り上げられる「認知的不協和理論」ですが、基本的には態度変化全般に関する理論で、懐疑論者が色々と情報を検討しながら自分の立ち位置(ひとつの結論)を決める際にも、不協和の低減を行っていると考えて問題ないかと思います。
不協和低減のための態度変化が起こりやすい条件については、1〜3を「不本意な行動でも合理化される」、4〜5を「困難さが魅力につながる」と解釈してもいいかもしれません。
「認知的一貫性理論」と、「認知的均衡理論」の方は、感情に合わせるように認知と行動が引っ張られる傾向の話なのに対し、「認知的不協和理論」の研究の特徴は、行動に合わせるように認知と感情が引っ張られる傾向になっていることです。
基本的な概念として、不協和関係が生じるとその不協和を低減するように動機付けられるところまでは、良いも悪いもなく中立ですが、個別の研究はバイアスの研究のような状態になっています*2。「甘いレモンの合理化」とか「すっぱいブドウの合理化」も認知的不協和理論の話として出てきます。