予防原則の弊害
業者に利用される予防原則的考え方
世の中に蔓延している健康商法には、「〜は健康にいい」という直球の他に、「〜は危険だ」という情報を流し、「だから自然由来のものを選びましょう」という話に繋げ、高い商品を売るものもある。
さて、前者については「根拠なし」である程度納得言ってもらえる場合があるが、後者は結構難しい問題だ。ある程度与太話に慣れている人であれば、妄言だと感じるような話でも、一般の人には不安を与える場合が多い*1。
そもそも、ある物質が「絶対安全だ」などと保証することは原理的にできるはずもない。
予防原則は分かりやすい
実際に、科学的にある程度妥当な根拠がなくても、危険だと指摘されたものは避けるということは、それなりにまともな機関もやっていることだ*2。
これは、「予防原則*3」という考え方である。本当にリスクがあるかは分からないけど、とりあえず避けとけば安全だよね…というのは、とても分かりやすい*4。
世界情勢でいうと、EU系は「予防原則」に肯定的な態度であり、アメリカは否定的な態度である。
予防原則にも問題はある
しかし、予防原則には忘れられがちだが非常に重要な問題点がある。それは、予防原則を適用することによって生じるリスクの考慮である。下手するとこれは矛盾にもなってしまう。
どういうことか?予防原則によってある物質を規制した場合の副作用が(明確な根拠がなくても)予測できるのならば、予防原則での規制も予防原則の観点から予防されなければならない。
つまり、予防原則の立場から予防原則的対応が禁止されるという矛盾だ。
ちょっと荒唐無稽に感じるだろうか?いやしかし、現実としてそうすべきだったこともあるのである。以下のページを見て頂きたい。能天気なDDTの全面規制によって、いったい何百万人の命が脅かされ、何十万人の命が奪われたか*5。
http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/zak386_390.html#zakkan388
DDTについては、予防原則を適用する副作用が予見できたのであるから、予防原則的対応を予防する必要があった。…とはいえ、こんなに酷い話はそうあるものではないのだが。
リスク管理にならざるをえない
結局は「予防することによって増加するリスク」の考慮はきちんとしているのか?とういうところが重要となってくる。世の中は複雑なので、こういったリスクは多くの場合トレードオフ関係になるのが普通だ。
例えば、医薬品なんかはその最たるものである。厳密な予防原則の立場に立ってしまうと、(副作用があるのが当然の)医薬品は全く使えなくなってしまう。
問題が確実でも不確実でもリスクとベネフィットの比較は不可避なのである。つまり、リスク論とならざるをえない。
ところで、EUは予防原則を妄信しているような愚鈍な集団なのだろうか。実態を見るとどうやら違う。実際のところは予防原則的な勧告を出すものの、運用をリスク論に基づいたものになるよう努力しているようだ。逆にアメリカが予防原則的対応をとることもあったりする。